競プロ始めました-kaede2020-

競技プログラミング初心者向けのブログです

AtCoder株式会社に入社しました

0.はじめに

はじめまして、もしくはお久しぶりです、競プロ歴3年のかえでです。46歳で競技プログラミングを始め、今の年齢は49歳になります。

そんな私が、本日2023年2月1日、AtCoder株式会社に入社しました。

atcoder.jp

いったい何が起こったのかと驚かれた方も多いのではないかと思います。私自身もこの事実を人から聞いたとしたら、「え、どういうこと?」と思ったことでしょう。だから、書ける範囲で入社までの経緯を書きたいと思います。(事前にchokudaiさん*1とけんしょーさん*2には読んでいただいて許可をもらっています。)

1.前職と求人に応募するまでの話

前職では、顧客の声の分析を行っていました。SaaSを用いた分析もExcelの集計も、自分が好きで得意なことだったので、そこまで大きな不満はありませんでした。ただ2年間働いてみて、①肝心の商品をこれ以上情熱を持って好きになれそうもないこと、②(組織の仕組みに対する不満なので詳しい内容については自重)、この2つがわかってきて少し頭を悩ませていました。それでも今の年齢を考えれば、定年まで働き続けることができるだけでも十分に魅力を感じていました。だから、AtCoderの求人に応募する前に転職活動をしていたわけではありません。

「もしできるならば、正社員になって定年を迎えたい。」

それが私の描いていた夢でした。正社員だったのは新卒のときの1年ちょっとだけ。その後は派遣などの非正規雇用のみで働いていました。「もし転職するとしたらどんな条件を外せないと思うだろうか」と考えてみたことはあります。そのときに思ったのは、「正社員で定年まで働き続けることができる」ことでした。しかし、今の年齢で正社員になることが難しいことは、わかりきったことでした。

そんなときに、このツイートを見ました。

競技プログラミングを始めて約3年間経ちますが、初めて見るAtCoderの求人でした。(後から聞いた話ですが、AtCoderで求人を出したのは初めてだそうです。)そのとき自分がツイートしていたのがこれ↓。

自分自身、来期の大きな仕事をまかされて準備をしていたところだったので、辞めることは全く考えていませんでした。

しかし、夜になると、昼に見た求人のことが気になり始めました。AtCoder Jobsに書かれた文章を何度も読み返しては、思い悩んでいました。今はもう見ることができないので、その一部を載せたいと思います。

AtCoder Jobs の求人票

求人票を見て、これは自分のためにある仕事ではないかと思いました。特に「0:プログラミングコンテストのことを知り、AtCoder株式会社が提供している物の価値を理解する」ことはクリアしている自信がありました。また、エンジニアだったら無理だと思いましたが、事務職なら問題なくできると思いました。

このような求人が出るのは、最初で最後かもしれない。大好きなAtCoder。「今の仕事はAtCoderで働くことよりも上ですか?」「後から応募すればよかったと後悔しませんか?」自問自答が続きます。そして、意を決した私は、AtCoder Jobsに登録をして、「とりあえず話を聞く」ボタンをえいやっと押したのでした。

競技プログラミングを始めて以来、もらうばかりだった私が、AtCoderに直接ご恩返しをするチャンスです。ここはやっぱり思い切って応募するしかないと思ったのでした。とはいえ、自分の年齢は49歳。常識的に考えれば、やっぱり無理だろうなあと思っていました。

2.オンラインでの1次面談

「とりあえず話を聞く」ボタンを押すと、すぐに副社長のけんしょーさんから返信が来ました。それには、面談の日程を候補日から選び、可能であれば面談までに職務経歴書を送ってほしいと書いてありました。ん?自分は「とりあえず話を聞く」ボタンを押したつもりだったのだけど、と思います。「応募する」ボタンとの差異は一体何なのでしょうか?私の中で疑問がわき起こります。しかし、もう後には引けないので職務経歴書を送ります。その際、できるだけ指定されたフォーマットの記入例に沿って書くように気をつけました。(見直したつもりだったのですが、それでも後ほど間違いを発見。)

一方、面談をしてくれるという事実にとても喜びました。書類が通過した人しか面談できないと書いてあったのに、書類を送る前に面談が確定していたので。しかし同時に申し訳ない気持ちでいっぱいになります。忙しいとわかっている人が自分のために時間を割いてくれる。自分は(年齢的に)採用対象外と思われるのに。だから、少しでもその時間を有意義なものにしたいと思いました。しかし自分は、聞かれた質問にうまく答えられる自信がありませんでした。そう、ものすごく緊張するのです。どうしたらよいか悩みました。そして出した結論は、自分からテーマを決めて話せばよいのではないかということでした。10分間のプレゼン用の時間をもらいました。事前にパワーポイントで資料を作って、練習をしました。タイトルは「競プロ人材の評価の難しさ」です。

面談の時間は、一人のユーザーとして、AtCoderに自分の言いたかったことを直接言うチャンスでもありました。本当に、本当に、競プロerは優秀だと伝えたかったのです。それは自分がコンテストに真剣に参加しているからわかる、痛いくらい感じていたことでした。コミュニケーションが下手だろうが、そんなことはどうでもいいくらいの優秀さだと思っています。そして、コミュニケーション能力というのは、訓練すればかなり良くなるのではないかと思っています。だから、競プロerを大切にしてほしい。そんな思いを詰め込みました。

また、発表することで、資料を作れることと、ある程度話せることをアピールできるのではないかと考えました。

1次面談は、けんしょーさんと社員の方お二人の計三人の方との面談でした。当日プレゼンを終えた後に、けんしょーさんと、同席された社員のお二人から同じような感想を伺いました。「よかったら別の企業を紹介します。」「他の企業に応募したらどうか。採用されるのでは。」みたいな内容だったと思います。えっ!AtCoderだから応募したので、それじゃあ意味がありません。ひぇー、困ったと思いながら、この年齢ではまず書類を通過できないだろうということ、私はAtCoderだから応募したのだということを必死に伝えました。すると「今回の求人には合わないので、かえでさんに合った別のポジションを考えます。次のステップへ進んでもらうのは決定です。」とけんしょーさんが言ってくださいました。よかった。ドキドキしたまま面談が終わりました。終わった後にほっとして、うれしい気持ちがどんどんふくらんできます。

おー!すごい。

選考を通過したことに感動してしまいました。

その後2回、面談をすることになります。1回目、2回目はオンライン、3回目はオフィスに伺い、対面での面談をしました。*3

3.大学の就職活動と新卒で入社したときの話

昔話です。

緊張しやすく、人見知りで、あらゆることに自信がなかったので、声は小さく、窓口で買いたいチケットを伝えても、一度で聞き取ってもらったことがないようなタイプでした。

大学3年のときに就職活動を始めましたが、自分に何が向いているかもわからなければ、自分のやりたいこともわかりませんでした。嘘をつくことに抵抗があり、第二志望の会社に第一志望と言うこともできませんでした。家から通うのが遠いのも嫌なら、給料が安いのも嫌でした。時代は、就職氷河期と言われていた頃です。とても苦労しました。

何とか内定を一つもらうことができ入社しましたが、自分が配属された営業部は全国を飛び回っていて、ものすごくハードでした。営業部に配属されたのは、自分が希望したからです。やったことがなかったので、やってみたかったから。こんな軽い気持ちで営業を希望したことは、今思い出しても浅はかだったなあと思います。飛び込み営業やセミナーの集客、セミナーの司会や受付まで全てをやっていましたが、ものすごく大変でした。また、肉体的にもきつかったので、一年も経たないうちに体を壊してしまいました。もう無理だと思って上司や先輩に相談したのですが、「がんばれ」としか言われなくて辞めてしまいました。今思うと、人事部に直接相談すればよかったのかもしれません。

さて、営業の仕事があまりにもきつかったので、その後経験したどんな仕事も、このときより楽だと思いました。そして、いろいろな職種を経験するうちに、自分に向いてそうな仕事もわかってきました。子育てのブランクでどのくらい自分が仕事ができるのかわからなくなり、自信を失っていましたが、それも、競技プログラミングに参加することで、それなりにやれそうだと思えるようになりました。フルタイムで職場復帰して2年が経つ頃、今回のAtCoderの求人に出合ったのでした。

4.オンラインでの2次面談

2次面談の日になりました。chokudaiさんとけんしょーさん、役員の方の計三人の方との面談でした。「自己紹介をしてください」と言われて、心の中で苦手だと思いながら話します。聞かれた質問に一つずつ答えます。主に職歴の話をしていました。chokudaiさんに「苦手な競プロerはいますか?」と聞かれて、しどろもどろになりました。さらに「いつ入社できますか?」と聞かれて、わからなくて答えられませんでした。

そして面談は、一時間の予定が半分ほどの時間であっという間に終了してしまいました。普通だったら結果を待つことになるのでしょうか。しかし、この面談時には次の面談の予定がすでに決まっていたので、次は対面で、ということで終わりました。

5.対面での最終面談

最終面談の日になりました。AtCoderのオフィスに伺います。11時の約束で10時50分に着いたら、誰もいなくてオフィスは真っ暗でした。5分遅れるとけんしょーさんから連絡が来ます。1階に戻り、エレベーターの前で待っていると、chokudaiさんがやって来ました。一緒にオフィスに上がります。見たことのあるAtCoderのエントランス。テンションが上がります。

AtCoder本社の入口

けんしょーさんもやって来ました。ウーバーイーツでスタバを頼んで、それを飲みながら話をしました。chokudaiさんとけんしょーさんと13時過ぎまで2時間程いろいろな話をしました。もうただの雑談なのか、仕事の話なのか、境界がよくわからなくなっていました。私自身も、ただのAtCoderのファンなのか、社員として何をすべきかという話なのか、全てが入り混じっていました。

そしてその場で内定を頂きました。

6.終わりに

「求めている人物像とは異なるかもしれませんが、これまで受けたご恩をお返ししたい気持ちと、御社を応援し続けたい気持ちがあります。私の持っているスキルで何かお役に立つことがあるのではないかと思い、応募させていただきました。どうぞよろしくお願い申し上げます。」

AtCoder Jobs で、私が最初に伝えたメッセージです。失敗してもいいからチャレンジしよう、自分のできることをし続けていこうと行動し続けていたら、AtCoderに入社することになりました。これからもずっと、AtCoderには無料でコンテスト開催し続けてもらいたいと思っています。また、競技プログラミングの楽しさを多くの人に知ってもらいたいと思っています。そのために私は力を尽くすつもりです。

きっとこれから、思ったようにうまくいかなかったり、自分の力が足りずに自信を失ったり、何度も思い悩むと思います。そんなときはこのブログが自分を励ましてくれるのではないかと思っています。

chokudaiさんやけんしょーさんが自分を選んでくれたのだから。

それを心のよりどころにしようと思います。chokudaiさんは「競プロコミュニティの中にいるのがいいよね」と言ってくださいました。けんしょーさんは「日本中探しても、かえでさんみたいな人は他にいないと思う」と言ってくださいました。

だから、今日からがんばって働きたいと思います。

好きな会社で働いた自分はどうなるのだろうか。それは、自分のことなのに初めてのことで想像がつかなくて、とてもわくわくしています。こんな私ですが、よかったらどうぞ応援してください。そしてこれからもどうぞよろしくお願いいたします。

7.おまけ:入社後の競技プログラミング参加について

AtCoderでは作問に関わっていない*4ので、これまで通りコンテストに参加できるということでした。これから先、自分の立場が変わったときにはAtCoderで開催されるコンテストには参加できなくなるかもしれません。それでも、CodinGameもあれば、TopcoderCodeforcesもあります。まだまだ参加できるコンテストはたくさんあるので、これからも競技プログラミングは続けていきたいと思っています。そして、もっともっと強くなりたい!今も競技プログラミングが大好きな気持ちは変わっていません。

これで私の話は終わりです。最後まで読んでくださり、どうもありがとうございました。

jobs.atcoder.jp

*1:AtCoder代表取締役高橋直大さんのことです。

*2:AtCoder副社長の青木謙尚さんのことです。

*3:私自身、面談と面接の違いがわからないので、言葉が適切ではないと思われた方がいらしたらお許しください。面談だと思っていた全てが面接だったのかもしれません。

*4:「作問に関わる」というのは、writerを指す言葉ではありません。